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TMRセンサの応用事例②『生体磁気(心磁計測)』

TMRセンサを用いた心磁計測

はじめに

心臓の活動は電気信号によって制御されています。この電気信号により発生する微弱な磁場を計測する技術は、心磁計測(Magnetocardiography, MCG)と呼ばれています。MCGは非侵襲的に高精度な心臓の情報を得る手段として注目されています。本記事では、TMR(Tunneling Magnetoresistance)センサを用いた心磁計測技術について解説し、心電計測(ECG)や従来のSQUID(超伝導量子干渉素子)、OPM(光ポンピング磁力計)と比較した際の優位性について詳しく説明します。


心電計測との違いと優位性

1. 心磁と心電:計測原理の違い

  • 心電計測(ECG): 電極を皮膚表面に配置して心臓から発生する電気信号を計測します。
  • 心磁計測(MCG): 心臓の電気活動により発生する微弱な磁場を計測します。磁場は電場と異なり、人体組織による減衰を受けない特徴があります。

2. 心磁計測の優位性

  • 非接触計測: 電極を皮膚に貼り付ける必要がないため、患者の快適性が向上します。
  • 高感度: 磁場の計測により、心臓活動の深部からの信号も検出可能です。特に、虚血性心疾患や不整脈(心房細動、心室性不整脈)のような微弱な異常信号の検出が心電図よりも容易で、これらの疾患の早期発見が可能です。
  • 高空間分解能: 磁場は体内組織の影響をほとんど受けずに計測できるため、心筋虚血や心筋梗塞のような局所的な異常部位を正確に特定することができ、診断精度の向上が期待されます。

SQUIDとの違いとTMRセンサの優位性

1. SQUIDの特徴 SQUIDは高感度な磁場計測が可能なデバイスであり、従来の心磁計測装置において広く使用されてきました。しかし、以下の課題があります。

  • 極低温環境の必要性: SQUIDは超伝導材料を使用しており、液体ヘリウムなどの冷却剤を必要とします。
  • 高コスト: 冷却装置および維持費が高額です。
  • 大型装置: 装置が大きく、可搬性に欠けます。

2. TMRセンサの特徴と優位性

  • 常温動作: TMRセンサは常温環境で動作可能です。
  • 高感度: 微弱な磁場(ナノテスラオーダー)を検出可能な性能を持ち、SQUIDに匹敵する感度を実現しています。
  • 低コスト:半導体素子と同様の製造技術を使うため、量産・低コスト化が可能です。
  • 小型・軽量: センサの小型化が可能で、体表面に密着して計測できるため、ポータブルな心磁計測装置の開発が進められています。
  • 簡便性: 冷却装置が不要で、運用が簡単です。

OPMとの違いとTMRセンサの優位性

1. OPMの特徴 OPM(光ポンピング磁力計)は、光学技術を用いて微弱な磁場を計測する技術です。以下の特徴があります。

  • 高感度: OPMはピコテスラレベルの磁場を検出可能です。
  • 常温動作: OPMもTMRセンサと同様に常温環境で動作可能です。
  • 非接触計測: OPMは接触せずに磁場を計測でき、患者の負担が少ないです。

2. TMRセンサの優位性

  • 小型化と設計の自由度: TMRセンサは、OPMと比較して小型化が容易で、計測装置全体の設計において柔軟性があります。
  • 低コスト: OPMは光学部品を多く必要とするため、TMRセンサに比べて量産性が低く、製造コストが高くなる場合があります。
  • 磁気シールドレス: TMRセンサはダイナミックレンジが大きいため、OPMで必要となる磁気シールドが不要です。

まとめと展望

TMRセンサを用いた心磁計測は、非侵襲的で高精度な心臓活動の解析を可能にする新しい技術です。従来の心電図と比較して得られる情報が多く、SQUIDおよびOPMと比較してもコストや運用面での優位性があります。また、リアルタイム心磁計測への応用により、診断や治療の迅速化が期待されます。

現在、TMRセンサの感度向上とノイズ低減技術の高度化も進んでおり、測定精度が一層高まることが期待されています。これにより、心磁計測が心臓の複雑な病態解明における標準的なツールとなり、病院だけでなく家庭や外来診療における利用も可能となるでしょう。医療現場における心臓診断の未来を大きく変える可能性を秘めています。

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